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2014年3月24日

【GDC 2014】低迷が一転大人気ゲームに!Valve流「CS:GO」コミュニティ戦略 少人数スタッフで大量の武器追加、ユーザー数倍増をもたらした“超簡単武器スキン制作システム”

■ 佐藤カフジ

 月額課金制や基本プレイ無料のオンラインゲームの世界では、いちど人気が低迷しても様々なテコ入れで人気を取り戻す例はある。しかし、1度売ったら終わりの売り切り型のタイトルで、発売から一年以上たって大復活、それどころかローンチ直後をはるかに超える人気を獲得するというゲームはほとんどないのではないだろうか。

 Valveによる「Counter-Strike: Global Offensive(以下CS:GO)」は、そんな稀有な現象を今まさに起こしているゲームだ。10年以上の歴史を持つ対戦型FPS「Counter-Strike」シリーズの最新作として2012年8月に登場した本作は、シリーズのネームバリューはあったものの、従来作の焼き直し以上の印象を与えることができず、低調なローンチを迎えた。

「「CS:GO」ピーク同時接続数の推移。昨年後半に何があった?

 Steamのピーク同時接続ユーザー数の統計記録によれば、ローンチ直後に6万人弱を記録して以降、2万人程度に低迷。筆者もこの頃本作をプレイしていたが、新作なのに流行っている感が全くせず、数週間後には「終わったな」と思ったものだ。しかし、Valveは売り切り型のゲームであれ“Game as a Service”(サービスとしてのゲーム)を徹底している企業である。度重なるアップデート、大会開催などによるテコ入れでじわじわとユーザー数を増やしてきた。

 その極めつけとなったのが昨年夏に登場した「Arms Dealer Update」である。その登場でピークユーザー数は急激に上昇し、昨年末にはSteamの定番FPS「Team Fortress 2(TF2)」を抜き、いまでは毎日の同時接続数12万人を数える大人気タイトルと化している(その上は同接70万人を誇る『Dota2』しかない)。いったい何をしたらこうなったのか?

 Valveによるセッション“Building the Content that Drives the Counter-Strike: Global Offensive Economy”にて、復活の決定打となった施策の正体と、その技術的背景が解説された。

「Counter-Strike: Global Offensive」。長い歴史を持つシリーズの最新作であり、過去作にユーザーが分散していることもあって当初は低空飛行を続けていた

コミュニティマーケットを活用し、ユーザーエコノミーを推進せよ

 本講演を行なったのは、Valveの「CS:GO」運営チームに属するテクニカルアーティスト、Bronwen Grimes氏。大復活劇のカギとなるテクノロジーを考案した立役者である。

Valve、Bronwen Grimes氏

 「CS:GO」は販売価格15ドルの売り切り型とはいえ、Valve謹製としてSteam上の定番FPSとなることを義務付けられたタイトルである。12人という小規模な編成の開発チームは、低調なローンチ以後、ユーザーの数と定着率、平均プレイ時間を伸ばす方法をひたすら模索していた。

 その中で有望策として上がってきたのが、無料FPS「TF2」で実績を挙げつつあったドロップアイテムの実装とコミュニティマーケットの活用である。コミュニティマーケットとはSteam機能の一部で、ユーザー同士でゲーム内アイテムをリアルマネー相当のSteamクレジットで売り買いできるオークション系のシステムだ。

Steamのコミュニティマーケット。ゲーム内アイテムをユーザー間で売り買いできる

 Valve肝いりの実験場と化している「TF2」では、大量のドロップアイテムや、ランダムにアイテムが出現するドロップ箱を実装し、コミュニティマーケット上でのユーザーエコノミーを促進。素材から新しい武器等を作れるクラフトシステムも実装し、ユーザーのアイテム/マネーの収集欲、さらには創造力を刺激することでユーザーの定着率を大幅に上げることに成功していた。

ドロップアイテムによるテコ入れ。しかしゲーム性はいじれない、スタッフは少ない。どうする?

 しかし「CS:GO」で同じことをやるためには2つの障害があった。ひとつは、これが「Counter-Strike」直系の対戦型FPSであり、Eスポーツタイトルとしての一貫性を崩せないこと。武器バランスなどゲーム性に影響するものは入れられない。もうひとつは、コミュニティマーケットに大量のコンテンツを溢れさせるには、開発チームの規模が小さすぎることだ。なにしろ専任のアーティストは2人しかいないという。

 良い方法を見つける必要があった。そこでヒントになったのが、ユーザーMOD発表の場となっているSteam Workshopや、「CS:GO」の各種MODサイトでのアクティビティ、また、実銃コレクターたちの文化だった。そこでは武器に個性的なペイントを施して楽しむ文化がある。「CS:GO」内においても武器のテクスチャーに手を加えるカスタムスキンは人気のあるMODだった。

カスタムアイテム導入リスクの検討。武器のカスタムスキンが最も妥当だ

 ただ、Steam Workshopで流通するカスタムスキンは、あくまでクライアントサイドのMODであり、ゲームサーバー上では共有されず、使用者自身しか楽しむことができないところにユーザーの不満がある。もしこういったカスタムスキンをシステム側でアイテムとして提供し、他のプレーヤーにも見えるようにすれば、個性的な銃を“所有する価値”が生まれるのではないか?

 カスタムスキンならゲーム性への影響もない。方向性は決まった。「CS:GO」でドロップするアイテムは、個性的なペイントが施された武器だ。ただ、ここからいきなりカスタムスキンの制作を始めるのではなく、そのための最高のシステムとツールを準備して、ユーザー全体を流れに巻き込むのがValve流である。

伝統的な「Counter-Strike」コミュニティや、銃器コレクターの間には個性的な仕上げの武器を楽しむ文化がある。ゲームの許す範囲で、ユーザーが求めていることをやろう

最強のカスタムスキン制作ツール「CS:GO Workshop Workbench」誕生

銃器の地肌、ペイント、キズ、汚れ、剥がれ、かすれなどなど、パラメータ化できる構成要素を分析

 セッションの話題は、“見栄えの良いカスタムスキンをいとも簡単に作れるシステムをいかに実現するか”に移った。  もともとのゲーム内の銃のグラフィックスは、リアルな質感を出すためにテクスチャーに様々な陰影、汚れ、ペンキの剥がれなどが書き込まれている。しかし、こんなものは専門技術を磨いたアーティストにしか造れない。誰もが簡単にカスタムスキンを作れるようにするためには、模様を入れ替るだけでもリアルな銃のイメージが得られるようにしなければならないのだ。  そこで武器テクスチャーの構成を大幅に変更。ベースとなる金属の色、劣化によるペイントの剥がれやかすれ、繰り返し触ることによって発生するグリップ部等の色あせ、などなどの属性を別ソースのテクスチャーに分離し、模様とは別に独立したパラメータとして調整できるようにした。

風貌を決める要素を整理し、カスタム容易なテクスチャー構成を開発
 こうすることで、ステッカーのようにきれいな模様テクスチャーを張り込んだだけでも、使い込まれた武器の雰囲気をリアルに、しかも簡単に再現できる。模様テクスチャーの繰り返しパターンや大きさを変えることでも、同素材から無数のパターンが生み出せる。  こうして開発チームは強力なシステムを手に入れ、少人数でも大量のカスタムスキンを生み出せるようになった。たくさんのパターンを作り、ドロップアイテムとして実装したのが2013年の8月13日。「Arms Dealer Update」の実装である。

手軽に見栄えのするカスタムスキンを作成できるようになった
スタッフの手で大量のカスタムスキンアイテムを用意し、2013年8月「Arms Dealer Update」を実装。低空飛行中の「CS:GO」にとって大きな転機となった
 ゲーム中のドロップで手に入ったアイテムは、自分のコレクションとして使うことも、コミュニティマーケットで取引することもできる。ゲーム中には見慣れぬ武器を誇らしげに振り回すプレーヤーが現れ始めた。レアドロップのアイテムは数十ドルもの値がつく。変化に気付いたユーザーが定着し始め、平均ユーザー数はまもなく1.5倍に伸びた。  そしてカスタムスキン作成ツールをさらにブラッシュアップし、Steam Workshop向けのMODツールとして「Steam Workshop Workbench」を公開。ユーザーの手で簡単にカスタムスキンを作り、優秀作品を公式アイテム化するというシステムを打ち出す。この施策が始まった2013年10月末以降、ユーザー数は一気に倍増した。YouTube上には「Workbench」の使い方を紹介するビデオが大量に投稿されていることからも、その盛り上がりがよくわかる。
引き続き10月末には作成ツールを公開。Steam Workshopにユーザーがカスタムスキンを簡単に公開できるように
 こうして「CS:GO」は躍進。現在ではピーク時の同時接続数12万人をキープしている。これは「CoD」シリーズや「BF」シリーズをも上回る水準で、PC用FPSとしては最高の人気ぶりと言っていい。Eスポーツタイトルとしても注目が高まり、その全体がシナジー効果を生み出す。ユーザーに収集と取引の手段を与えた上、さらに創造と共有への意欲を刺激することが、Valveとユーザーの双方に最大の利益をもたらしたわけである。  この価値を維持するため、開発チームではカスタムスキンの価値基準を「派手さ(Conspisiousness)」、「伝統感(Heritage)」、「希少さ(Scarcity)」、「Quality(品質)」、「美しさ(aesthetics)」の6軸に分類し、一定期間毎に流行りの方向を切り替えるよう、アイテム傾向を慎重にコントロールしているという。ゲーム内の風景に、常に変化をもたらすための工夫だ。
コミュニティマーケットが大きな盛り上がりを見せ始める
 Steam Workshopに、コミュニティーマーケット。Steamならではのシステムを駆使して躍進を遂げた「CS:GO」。この成功例はSteam上のタイトルではもちろん参考にされるだろうし、他のプラットフォーム上でくすぶっているゲームを輝かせるためにも応用できそうだ。もちろん、ゲームそのものの完成度が高いことは前提として、その面白さをさらに引き出す施策、と理解すべきではあるだろう。
制作された様々なカスタムスキン
コミュニティマーケットはドロップのレア度や流行り廃りに応じて相場が変動していく
カスタムスキンの価値基準となる6つの軸と、それぞれの特徴的な傾向
「Arms Dealer Update」の公開でユーザー数1.5倍
「Steam Workshop Workbench」ツール公開で一挙2倍に

(初出:GAME Watch)

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